r-2.【書評】『ムダゼロ会議術』横田伊佐男著

r.書評

 『OUTPUT読書術』(アバタロー著/クロスメディア・パブリッシング社)を読み、「目的意識を持った投資家的選書」をする必要を実感しました。「仕事をスムーズに進める上で、社内会議の効果を高めたい」、そんな目的意識を持って予算を立て、買った一冊が今回ご紹介する『ムダゼロ会議術』(横田伊佐男著/日経BP社)です。本記事は『ムダゼロ会議術』の簡単な書評と気になった点を少し考察しました後、最後に結論を述べます。また、『OUTPUT読書術』の書評は下記をご参照ください。

私が投稿したamazonレビュー(★★☆☆☆)

 まずはじめに本記事の私が投稿したamazonレビューを転記します。以下、抜粋です。

【タイトル】会議術に興味を持った方が手に取る1冊目としてのみ読めます

 何冊か「会議の進め方」に関する本を読みますと、紹介される事例が違うだけでテクニックはほぼ同じ、と言う印象を受けます。本書を読む前に数冊の会議ハウツー本を読んでいた私には本書から新しい知識は得られませんでした。

 会議を効率化するためには、関係者全員が(何人かで集まればなんかいいアイデアが出るのでは?)という認識から(目的を定めて絶対に会議で結論を出す)という風に考え方を変えない限り上手くいかないと思います。

「こんな風に会議をしたいから読んでよ」

と本著を相手に薦めて相手の意識を変えられるか?、と言いますと読み物としても印象薄、会議術に興味のない人間を惹きつけられないでしょうから私ならやりません。

本当に会議に来てほしくない人を会議から排除できるのか?

 さて、『ムダゼロ会議術』の私の評価は★2(満点★5)と低いものでした。amazonレビューに記載の通り、「新しい発見が無かった」、「仲間に薦めたいと思うほど面白いと思わなかった」のが低評価の理由です。以下、「どれだけガッカリしてか?」とお話しても面白くありませんから、本著で紹介されているハウツーの中から一つ、私が(これは違うではないか?)と感じたものを取り上げます。

 私が違和感を感じたのは下記の「15秒の手間で会議に来てほしくない人に出席しないでもらう方法」です。まず本書から引用します。

すれ違いの立ち話でもいいので、

「あ、あの件ですが、関係当事者だけで打ち合わせをしておきます。ご多忙かと思いますので結果だけ共有させて頂きますね。何かありましたらご意見いただけますか」

と口頭で伝えよう。

 『ムダゼロ会議術』(横田伊佐男著、日経BP社、Kindle位置No.409/1812

 補足します。引用した文章は「会議に来て欲しくない人に対して、軋轢を生まずに上手に会議参加をお断りする方法」として紹介されています。

 さて、引用文でまず第一に私がツッコミたい所は「ご多忙かと思いますので」というフレーズです。言葉尻をとらえるのは好きではないのですが、話の展開上この点を述べた後、最後に引用文全体に対して私が持った違和感の正体を説明します。

 まず話の前に前提を整理します。「会議に来て欲しくない人」の定義です。本書では「キライな人」で片づけられています。もう少し絞ってみましょう。『ムダゼロ会議術』では会議の種類を以下の3点に分類しています。なお、カッコ内は私の解釈です。

  • 決定 (何かを決める)
  • 共有 (情報を周知する、合意を得る)
  • 拡大 (アイデア出し)

 この内、真ん中の「共有」は何らか次のステップに話を進めるために、「みんなで情報を認識して合意し合った(だから、やる)」という体裁をとるものですから、(会議に来て欲しくない)と自分が思っている人を排除することはできません。排除すれば会議の目的そのものが揺らぎます。また、最後の「拡大」は私の経験上、「アイデアを発散して終わり」という会議はほとんどありません。多くの場合、「拡大→決定(たくさん出た選択肢の中で何を選ぶか?)」を一つの会議で実行します。そのため、以下の議論では「何かを決めるための決定を目的とした会議で来て欲しくない人」を想定します。

 では早速いきましょう。私が考えます「何かを決める会議で来て欲しくない人」はズバリ、1種類の人間のみです。

会議に来て欲しくない人 = 当事者意識が無い人

 「当事者意識が無い人」、この方々は多くの場合、会議中に終始黙っていることが多いので毒にも薬にもなりません。ですから放っておけばよいとも考えられます。ただし、「当事者意識が無い+自分の頭の良さをアピールしたい」、「当事者意識が無い+仕事をしている実感を得たい」と「当事者意識が無い」ことに会議目的とは全く関係がない個人の動機を強く持っていると会議をひっかき回すので厄介です。

 「当事者意識がない+自分の存在を相手にも認めさせたい」のコンボスキル持ちの方の場合は、会議中に(今それを言って議論を停滞させてどうする?)という空気を醸成するのですけれども本人は会議参加者を静まりかえらせたことに自信満々だったりします。「当事者意識がない+役職持ち」のスキル&ステータス持ちの方は自分自身が作業をしないものだから、やたら正論で大変な分量の作業を提案することもあります。そして膨大な分量の作業に誰も手がつけられず、案件は停滞します。作業を提案した本人は当事者意識がありませんから、そもそも課題が解決しなくても全く気になりません。自分の意見を通したことに満足しているのみです。

 私は「会議参加者全員が積極的に思ったことを発言し合った結果、得た結論に対して全員の納得度が高い会議」が良い会議だと考えています。しかし、当事者意識が無い人が会議に交じっていますと前段の「参加者全員が積極的に思ったことを発言する」時間帯に(何かまた余計なことを言い出すんじゃないか?)と警戒するがために思ったことを発言するのをためらってしまう、という状況が発生します。この点が私には大きなストレスです。

 では「当事者意識が全く無い人」に先ほどの『ムダゼロ会議術』で紹介されている魔法の言葉を言ってみます。マジックワードを再掲します。

 

「あ、あの件ですが、関係当事者だけで打ち合わせをしておきます。ご多忙かと思いますので結果だけ共有させて頂きますね。何かありましたらご意見いただけますか」

 『ムダゼロ会議術』(横田伊佐男著、日経BP社、Kindle位置No.409/1812

 先ほど私は「ご多忙かと思いますので」という文言にツッコミを入れたいと言いました。そうです、「当事者意識がないAさん」は多くの場合、開催を予定している会議に限らず基本的にいつでも「当事者意識がない」人ですから、日ごろからそんなに忙しくありません。そのため、引用した魔法の言葉に対して「いいよいいよ、そんなに気にしてくれなくていいよ。予定が空いてるなら会議に出るから一応案内メールだけは送ってよ」と返事され、結局会議にやってきてしまいます。

ではどうすれば会議に来て欲しくない人を会議から排除できるのか?

 一番良い手段は「なぜ会議に来て欲しくないのか?」をストレートに、でも丁寧に伝えることだと思います。ケースバイケースなのでなんとも言えませんが、『ムダゼロ会議術』に記載されている「議題は数字と名前などで具体化するほどキレが出る」を応用しまして具体例を一つ、以下の通り考えました。

  • あの件、まずはAAさん、BBさん、CCさんと私の4人のみで打ち合わせます。会議後に議事録を回します。もしお送りした議事録の内容に何かありましたらご意見を頂けますか?

 もちろん間違っても「貴方っていつも議論をひっかき回すから来ないでください」などとは言いません。目的通り会議に来て欲しくない人を会議から排除できますけれども、その後の人間関係が悪くなり、仕事がやり辛くなります。これは『ムダゼロ会議術』内でも筆者が警鐘を鳴らされています。それが故に提案されているのが上記の「関係当事者だけで打ち合わせをしておきます云々」をメールではなく、直接伝えることです。

 なお、伝え方はともかく本意が「お断り、でもその後の人間関係にしこりを残したくない」なのでメールではなく口頭で伝える、という『ムダゼロ会議術』のアイデアはとても良いと思います。もし仮に話がこじれたとしてもその場ですぐに修復できる可能性が残されているからです。メールでは話がこじれた際、修復が面倒だと放置するとますます後で余計なコストを支払う結果になります。

 話を戻します。結局私が引用文を拝見して感じた大きな違和感は、「なぜ会議に来て欲しくない、人間関係も悪くしたくないから直接伝えたい」まで迫っておきながら、最後の最後で相手に対して誘導的なテクニックに走ってしまうのか?、しかもそのテクニックを「これで大丈夫!」と自信満々で読者に伝えられるのか?、という点です。

 私なら相手にネガティブな情報を伝える際、相手を操作しようとはせず、率直にコメントしまして相手の出方を伺うことに努めます。もちろんそれは私の個性で万能ではないでしょうから、仮に私が本を書く立場であったとしても、「これが決定版の対策だ!」とは言いません。

 作者はきっと講師として会議術を教える場合にはとても優秀な方なのだろうと思います。講師の自信満々な態度は人を惹きつけますから。また、『ムダゼロ会議術』は会議の段取りに興味を持った方が最初の一冊としてお読みになるには良いです。2時間もかからずに一通りの会議段取り術が分かるからです。残念ながら私は作者との接点に恵まれませんでした。

 何かの参考になりましたら幸いです。

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